2026年7月24日に金融庁が公表した「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート 2026」の中でAIの利活用の促進が期待されていました1。
筆者はアセットマネジメント会社でコンプライアンスの業務に従事しています。コンプライアンスは非競争領域に位置付けられている感覚があり、合理化、自動化、省力化が今後さらに要請されると予想しています。
会社貸与のPCは特定のAIのみが使用を許可されています。しかしこのAIはやや精度が低いです。
少しづつ調整して利用しています。日々AIを使う立場から、利用上の工夫を共有します。
存在しない条文を根拠とする⇒e-Govリンクを提示
コンプライアンス部員にとっては非常に困る事象です。
ある時、「日本で投資運用業の登録をしていないが、外国で投資運用業を行う者が、日本国内において例外的に投資運用業者等向けに投資運用業を行える根拠は?」と尋ねました。
すると、「外国投資運用業者等の特例(金商法第61条の8)」が設けられています」と回答してきました。
しかし、その時もこの記事執筆時(2026年8月15日)も、金商法に第61条の8はありません。該当条文が無いと指摘すると、AIは謝罪と共にまた別の存在しない条文を根拠に挙げました。
こういったやり取りを繰り返しましたが、一向に正答を導けません。(根拠として、参照すべきWebページのURLを挙げるがクリックすると”Error Not Found”が表示されるなど)
検索の範囲が広すぎるのが問題かと思い、e-Gov法令検索からその時施行されている金商法、金商法施行令のURLを載せ、「下記を参照してください」とプロンプト入力しました。
すると、正しい根拠である金商法第61条第2項を挙げてきました。
存在しない条文を挙げた理由は「「法律の文脈において、こういう文言や条番号が続く確率が高い」という確率論で答えを生成しているから」とのことです。
最初に見た時は、求める水準に全く至っていないと憤然としましたが、冷静に見てみると、関連がありそうな箇所はカバーしていると感じました。その部分は利用することとし、根拠条文を尋ねる際には、参照先の法令URLも併せて提示するのを対処法としています。
応用が利かない⇒理由を説明する
資産運用業協会の正会員は、いわゆる重要な使用人の役職が変更になった時は資産運用業協会に届出が必要です。【定款施行規則第9条第1項第15号】2
筆者がAIに「コンプライアンス部長(重要な使用人)の役職名が変わった時に、資産運用業協会に届出をしなければならない根拠を教えてほしい」旨を入力すると、また無関係な条文を引いてきました。筆者は今回は正しい条文をすぐに教えました。
その後、類似の質問「コンプライアンス部長(重要な使用人)の役職名が変わった時は、資産運用業協会に届出しなければならない。その根拠条文の裏にあるレギュレーション上の要請は何か?」
と尋ねると、私が入力した条文を返答してきました。
質問の意図と異なった情報です。そこで、規則が実現しようとする政策意図を伝えました。
適正なガバナンスの担保のため
仮に、コンプライアンス部長の役職名が年金営業コンプライアンス部長に代わったとする。
指揮命令系統を見てみると、年金営業部の下にコンプライアンス部長が付き、その下にコンプライアンス部員がいる。
これは年金営業部の責任者がコンプライアンス部をコントロールできることを意味する。
コンプライアンス部長含め、重要な使用人の入退社は組織への影響が大きい。
加えて、仮に在職していようとも、指揮命令系統の変更も金融商品取引業者の内部統制に大きな影響がある。
だから、役職名の変更もそれを把握する端緒として自主規制機関は把握したいのだろう3。
この問いの後に、「コンプライアンス部長は在職している。しかし、交通事故に遭い3か月間の入院が見込まれる。投資運用業者は何かアプローチをとるべき?」と尋ねたら、「法令順守体制の維持の観点から、当局や協会へのアプローチが必要です。」と回答がありました。いわく「「どのような代行体制でコンプライアンス体制を維持するか」を速やかに報告・事前相談すべき」とのことです。
当局や自主規制団体への報告・相談が必要と断定するのはやや保守的な感じがしましたが(実際は、緊急時プランでのスムーズな移行ができているか、会社の人員体制も勘案)、代行体制の構築にあたり、監督者に状況を伝える大切さを視野に入れていたのはよかったです。
実務メモ:コンプライアンス責任者の代行者も「重要な使用人」になり得る
法令遵守に関する重要な使用人はコンプライアンス部署の責任者だけではありません。その地位を代行する者も該当し、当局、資産運用業協会への届出対象です。コンプライアンス部の副部長を届け出ている金融商品取引業者もあるかと思います。
【ご参考】
金商法施行令
第15条の4 法第29条の2第1項第4号並びに第29条の4第1項第2号及び第3号ロに規定する政令で定める使用人は、次の各号のいずれかに該当する使用人とする。
一 金融商品取引業に関し、法令等(法令、法令に基づく行政官庁の処分又は定款その他の規則をいう。以下同じ。)を遵守させるための指導に関する業務を統括する者(筆者注:コンプライアンス部署の責任者)その他これに準ずる者として内閣府令で定める者
二(略)
金商業等府令
第6条 令第15条の4第1号に規定する内閣府令で定める者は、部長、次長、課長その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、同号に規定する業務を統括する者(筆者注:コンプライアンス部署の責任者)の権限を代行し得る地位にある者とする。
まとめ
生成AIは、コンプライアンス業務にそのまま使えるほど正確ではありません。存在しない条文を根拠として示したり、質問の意図を汲み取れなかったりすることがあります。
そこで、人が参照範囲や制度趣旨を与え、AIに論点整理や検討を手伝わせる。現時点では、このような使い方がコンプライアンス業務には適していると考えます。
AIの精度は今後さらに向上していくでしょう。それを待つだけではなく、現在使えるAIの特徴や弱点を理解し、どのように使えば役立つのかを試行錯誤するのもコンプライアンス担当者に必要な取り組みだと思います。
- https://www.fsa.go.jp/policy/pjlamc/20260724/20260724.html p41 ↩︎
- https://www.imaj.or.jp/about/information/rules.html ↩︎
- なお、組織変更は組織規程の変更に該当する蓋然性が高く、これは業務方法書の変更に該当する可能性が極めて高く、資産運用業協会への届出事項です。【定款施行規則第9条第1項第9号】
当局への届出も同様。 ↩︎

