自信UP-広告審査

実務上のポイント

執筆理由

新任のコンプラオフィサーもある程度年次を重ねたコンプラオフィサーも、広告審査は等しく行っていると思います。審査する際についつい細部(誤植訂正、ページ番号の追加、数字へのカンマ付記など)に目が行ってしまいがちですが、広告審査は金商法と協会規則に基づいてコンプライアンスの観点から実施するものです。実務を見てみると、指摘事項もコンプラオフィサーそれぞれにより濃淡があり、指摘の程度も異なることもあります。コンプライアンス上の判断なので、裁量があるのは事実ですが、同様に押さえておかなければならないミニマムスタンダードがあります。

私自身、広告審査を始めた当初は形式面にばかりこだわってしまい、期待される役割を果たしたとは言い難かったです。反省とともに、コンプライアンス上の広告審査のポイントを記載します。

審査対象物がやってきたら

金商法上の広告等に該当するか否かで法定記載事項は変わってきます。この判断、特に「金商業の内容に当たるか否か」を巡って申請部署と応酬が起きたりします。グレーな場合、スタンドアローンのコンプラオフィサーは自身で判断しなければなりませんが、チームで仕事をしているなら最後は上席者に判断いただくことができます。「金商業の内容」の該当に関してはこのブログの最後でまとめているので、別途ご覧いただき、今はそれ以外の部分についての判断チャートを示します。
【広告等規制の対象か-判断のポイント-】
 1.交付対象は1社(名)か2社(名)以上か?
 2.1.が2社(名)以上だった場合、金商法上の特定投資家のみに交付されるものか?
 3.2.がいいえだった場合、業等府令第72条に規定される、広告等規制の適用除外とされるものか?

【チャート化】

設問はいいいえ備考
交付対象は1社(名)か広告等非該当次の質問へ
2社(名)以上は全て特定投資家か広告等規制の対象外次の質問へ特定投資家の定義は金商法第2条第31項、第2条定義府令第23条を参照
広告等規制の適用除外*とされるものか広告等規制の対象外広告規制の対象・法定記載事項あり
・誇大広告してはならない事項あり
*業等府令第72条

金商法-広告等の法定記載事項

審査対象物が金商法の広告等規制の対象である前提で進めます。

金商法上の広告等の要点は、「書くべきことと書いてはいけないことがある」です。前者は法定記載事項と言い金商法第37条第1項に列挙されています。後者は業等府令第78条に「誇大広告してはならない事項」として列挙されています。

条文を列挙しても実務の役には立たないので、リンクを貼ることで紹介に替えます。
〇投資運用会社は投信協会に加入していると思うので、参考として投信協会の規則もリンクを載せます。

金商法  https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025
業等府令 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419M60000002052
投信協会 広告等の表示及び景品類の提供に関する規則(禁止行為を列挙している)
     https://www.toushin.or.jp/profile/article/index.html

金商法と協会規則を踏まえて

広告等のコンテンツ毎に、私が注意を払ってきたポイントを記載します。条文ベースだとイメージがわきにくいので、筆者はコンテンツベースで考えてきました。

法令協会
規則
着眼点詳細
加入する金融商品取引業協会の名称・新しく第二種金商業を始めた等で、加入協会に変更がある場合に更新漏れの可能性
・(先日HPで公表されたが)投信協会と投資顧問業協会が合併に向けて協議開始など、加入団体の名称が変わった際の更新漏れの可能性
費用・リスク文言・「主たるリスクは以下の通りですが、これらに限定されるものではありません」の一文が欠如していることがあった。目論見書からリスク項目を引用したものの、柱書にあるそれらは一例である旨の引用漏れ。
 リスクは現時点で想定されるものであり、完全に網羅しているわけではないので、この注記は必須。
・特定投資家向けの資料を特定投資家以外(年金基金など)向けに転用した際に、費用・リスクの掲載遺漏。
リターンの表示9.4%の超過リターンを約10%と記載していた。1.ネットorグロスを要表示。2.前年度対比なのか、対ベンチマークなのか”超過”の比較対象が不明。また、業等府令第78条第6号で誇大広告してはならない事項に「金融商品取引業の実績に関する事項」があり、9.4%を約10%と表示するのは誇張ではないか。
運用実績の推移「過去の実績は将来の運用成果を保証するものではありません」の一文の欠如
今後の見通し「見解は現時点のものであり、市場動向等の変化により予告なく変更される場合があります」の一文の欠如
ファンドが組み入れる個別銘柄の説明アクティブファンドにおいて、組入銘柄の説明をする販売補助資料を作成した。全10ページの太宗が銘柄紹介かつ、ファンドにおける組入比率が低いものも含まれていた。説明する銘柄の選定は運用担当者の意向とのことだった。
 業等府令第117条第17号はいわゆる大量推奨販売を禁止している。説明する銘柄は組み入れ比率上位かつ各カテゴリーの上位とし、恣意性を極力排除した。
投資信託の仕組みリテール向けの販売用資料で、投資信託(証券投資信託)の受益証券を信託銀行が発行と誤記。投信法第2条7項のとおり、受益証券は委託者が発行する。
 広告審査というよりは事実関係の誤認だが、認知度の低そうな情報は内容の正しさも含めて留意。
銀行窓販のリテール向けファンド広告での文言「預金の代わりの第一歩におすすめです」元本割れの可能性がある投資信託と預金を同位に語ることはできない。なお、銀行法施行規則第13条の5では預金等との誤認防止が求められている。預金と同位かのように語る資料を使うと、販売会社である銀行が問題の当事者になる旨を説明した。
投資一任契約の勧誘資料日本における無登録格付会社(いずれも本国のS&P,Moody’s,Fitch)の社名を表示して、ポートフォリオ内銘柄に彼らが付した格付を表示。
 投資顧問業協会の通知にあるとおり、無登録格付業者の付した格付を勧誘資料に用いる際は金商法第66条の27の登録を受けていない旨等の説明が必要
債券を主たる投資対象とするファンドの広告格付に言及する可能性が高い。上述のとおり、投資一任契約の勧誘で無登録格付業者の付した格付に言及すると説明義務が課される。S&P,Moody’s,FitchはCtrl+Fで検索をかける用語。
グローバル(除く日本)を投資対象とするファンドの広告
人口減少する日本-世界に目を向けてみませんか
・赤文字のポップで「少子高齢化」「人口減少」「失われた30年」「ジャパンパッシング」「国の借金900兆」と記載。国の現状はそれらだけではないところ不安を煽って投資に結び付ける意図を感じた。投信協会規則で禁じられる「恣意的又は過度に主観的な表示のあるもの」と思慮。
 取り扱うファンドは多く、日本株のアクティブファンドも運用していたことから、統合性が取れない(そちらのファンドの広告では日本の明るい面を強調しており、両者は矛盾している)旨を伝えて、トーンを下げてもらった。
筆者の着眼点です

【おまけ】金商法-広告等とは  *復習用

金商法の施行に際して金融庁が公表したパブコメ1への考え方では広告を「一般的に広告とは、随時又は継続してある事項を広く(宣伝の意味も含めて)一般に知らせることをいうと考えられます2」としています。また、金商法の第37条(広告等の規制)第1項では「金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業の内容について広告その他これに類似するものとして内閣府令で定める行為をするときは、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を表示しなければならない。」とあります。

このことから、金商法の広告等とは、金融商品取引業者がその行う業の内容について、広く知らせるものと解されます。前者の業の内容については、金商法第2条第8項に定義があり、後者については2以上を対象とする場合と保守的に筆者は考えてきました。業の内容は前記のパブコメから引用して具体的に整理します。

ページ・No金商業の内容/
広告等に該当するもの
パブコメより-追加情報筆者注
p228 22投資信託の基準価格や収益分配金実績の推移データこれらは個別の商品の販売用資料である・金融庁が記載した基準”価格”は”価額”が正しい。以下同じ
・23との比較から22は非保有ファンドの基準価額や分配金データに対するものと思慮
p228 23保有商品の基準価格を提供する場合であっても、投資信託の追加購入又は乗換えを誘引する手段として交付される場合は広告等に該当する1つのデータでも使用目的により広告等該当/非該当が分かれる
p229 26金融商品取引への言及「経済セミナー的な一般セミナー」についても、例えば当該「セミナー」の中で金融商品取引への言及など「金融商品取引業の内容」が含まれる場合があり得るものと考えられることから、広告等に該当し得る経済セミナーの案内状も広告等に該当すると考えておいた方がいい
p231金融商品取引業者等が取り扱う商品名、これに関する目論見書の提供場所等のみを表示する文書等特定の投資信託名、特定の運用戦略名が入ると広告等規制の対象
p230 31も要確認
p232
44
「アナリスト・レポート」が当該個別企業に係る有価証券等の販売・勧誘に用いられるような場合1つの資料でも使用目的により広告等該当/非該当が分かれる
p232
45
商品名の周知・宣伝のみを目的とした小物の販促品の配布特定の投資信託名、特定の運用戦略名が入ると広告等規制の対象
p234
52
商品名の周知・宣伝のみを目的とした野球場の商品名看板特定の投資信託名、特定の運用戦略名が入ると広告等規制の対象
p235
53
投資信託委託会社が作成する投資信託の運用状況レポートを、当該投資信託を所有している受益者に交付する場合(ただし、これから投資信託を取得しようとする顧客に交付する場合を除く。)・投資信託の運用状況レポート
は、個別の商品の販売用資料
・既存顧客に対して保有商品の
基準価格を提供する場合であっても、投資信託の追加購入又は乗換えを誘引する手段として交付されることもあり得るものと考えられ、広告等に該当
これにより、法定の運用報告書以外=月報、適時開示資料は広告等に該当する
p235
53
セミナー等の案内、有価証券取引に関するアンケートp229 26より:「セミナー」の中で金融商品取引への言及など「金融商品取引業の内容」が含まれる場合があり得るものと考えられることから、広告等に該当し得る非常に細かいが、「セミナーの中で金融商品取引への言及があれば、業の内容に当たる」とは言っていない。「・・言及が含まれる場合があり得るから」業の内容=広告等に該当し得ると言っている。
ページ・
No
金商業の内容/
広告等に該当するかグレーなもの
筆者注
p229
27
「IR資料」や「金融知識啓蒙情報等」のうちには、「金融商品取引業の内容」に該当しないものもあり得る
「金融商品の仕組み」の紹介については、「金融商品取引業の内容」に該当する場合もあり得る
p230
34
「特定の商品を対象としないもの又は取引の勧誘を目的としないもの」であっても、その実態によっては、「金融商品取引等の内容」に該当する場合もあり得る(結局何なのかわからない)
ページ・
No
金商業の内容に該当しないもの備考筆者注
p228 22国債の金利推移データのみ国債の販売用資料と併せて提供される場合には、該当する場合もある
p229
26
兼業業務に関する情報提供金融商品取引業の内容ではないため
p230
31
「紹介広告(名刺広告)」や「イメージ広告」で金商業者の概要説明にとどまるもの「特定の金融商品について言及がなく、単なる取扱業務の紹介にとどまる文書」や「社名に『株式投資のパートナー』などとのキャッチコピー」を付けるにとどまるような場合仮に特定の投資信託名、特定の運用戦略名が入ると広告等規制の対象
p230
34
従業員の募集を行うもの(「求人広告」)や当該金融商品取引業者等の概要を表示するにとどまる場合(「会社案内のパンフレット」)
p231
37
営業時間や営業案内
p231
39
法令又は法令に基づく行政官庁の処分に基づき作成された書類業等府令第72条に掲げられる「広告等から除外される3パターン」の1つ目
p232
43と44
「個別企業の分析・評価等」にとどまるような「アナリスト・レポート」金融商品取引契約の締結の勧誘に使用しないものを配布する方法」については、広告等から除外業等府令第72条に掲げられる「広告等から除外される3パターン」の2つ目
p232
45
商品名・業者名・元本損
失が生ずるおそれがある旨・契約締結前交付書面等の書面の内容を十分に読むべき旨のすべての事項のみが表示された景品等を提供する方法
業等府令第72条に掲げられる「広告等から除外される3パターン」の3つ目
p234
53
顧客からの質問に対する回答であって、顧客からの質問について、その質問の範囲内(個別の商品内容の質問を受けている場合において、当該内容を回答することを含む。)において、口頭、書面、電子メール等により回答することその顧客に特化したものだから(多数性の欠如)
p234
53
顧客資産の分析に係る資料(顧客資産の分析のみであって、当該分析を基に有価証券の売買その他の取引を誘引する表示を行う場合を除く。)同上

なお、広告等とは広告と広告類似行為です。前者は1つ対多数、後者は1対1の累積だと考えています。例)広告:店頭のポスター ポスターは存在として1枚だが、これを見る人は店頭を訪れた多数であるため
  広告類似行為:電子メールの送付:あて先は特定の1人だが、同内容で複数に送ることができ、1on1 が累積した結果多数への情報提供となる。

【おまけ2】広告等審査という仕事の意義

投信協会の自主規制規則「広告等の表示及び景品類の提供に関する規則」第5条では「正会員は、広告等の表示又は景品類の提供を行うときは、広告等の表示又は景品類の提供の審査を行う担当者(以下「広告審査担当者」という。)を任命し、前条の規定に違反する事実がないかどうかを広告審査担当者に審査させなければならない。」とあります。

規則は審査部署の指定まではしていませんが、この条文がある限り、広告審査の業務はなくなりません。また、もう少し広い視点で見ても、広告は営業活動と密接に結びついており、投資運用会社が広告をやめる可能性は低いです。

投資家保護という大切な役割を担い、自主規制団体の規則にも規定されるのが広告審査です。せっかくですので、かつての私のような「誤字脱字の確認」「表現のちょっとした言い換え」に始終することなく、コンプライアンス上の観点から審査ができたらと思います。

  1. https://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20070731-7/00.pdf 2007年7月31日公表  ↩︎
  2. 同 p227 Q14への回答から引用 ↩︎
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