投資信託が分散投資する理由

実務上のポイント

はじめに

筆者が知人と話していた時のこと。暗号資産が金融商品取引法上の金融商品に位置付けられそうだという話になりました。知人は「暗号資産にフル投資する投資信託を買いたい」「NISAで運用したい」と盛り上がっています。筆者からは、「金融商品と定義されるのと、有価証券に定義されるのは別。現時点では有価証券と認める話にはなっておらず、証券投資信託の主たる投資対象にはなりえない。だからNISA口座では運用できないと思う」と伝えました。
知人はがっかりしつつも、「じゃあメタプラネットにフル投資する投資信託はどう?」と更なる案を出してきました。こちらは、運用会社が組成すれば実現しますが、特化型ファンドは対面販売において説明の手間が嫌われます。
対話を契機に、投信協会の「投資信託等の運用に関する規則」(以下、協会規則)に分散投資規制が設けられた時を思い出しました。当記事では、規制の骨子、議論が始まったきっかけ、協会規則案検討時の意見、最終的な落とし所について振り返ります。

協会規則リンク https://www.toushin.or.jp/profile/article/

分散投資規制の骨子

協会規則では、公募の投資信託の運用にあたり、発行体または取引の相手方(以下、発行体等)へのエクスポージャーに上限が設けられています。
【概要】
発行体等へのエクスポージャーの投資信託財産の純資産総額に対する比率が、区分ごとにそれぞれ10%、合計で20%を超えることのないように運用。区分は3つに分かれている。
1. 株式及び投資信託証券の保有
 (「株式等エクスポージャー」)
2. 株式と投資信託証券以外の有価証券、金銭債権、匿名組合出資持分
 (「債券等エクスポージャー」)
3. 為替予約取引やデリバティブ取引により生じる債権
 (「デリバティブ等エクスポージャー」)

形式的で機械的に見えますが、ルールには歴史的背景があります。

ルールの契機

― リーマンショック時の破綻連鎖問題 ―

2008年のリーマンショックでは、金融機関で大規模な債務不履行が発生しました。ミクロな視点では、私企業間の契約上の問題です。
しかし実際には、1か所で生じた債務不履行が想定を超えるスピードと範囲で波及しました。

契約は2者間であっても、金融市場全体としては、無数の取引がつながっています。その結果、1つの破綻が連鎖を生みそれが次の破綻の呼び水になりました。さらに、金融市場と実体経済は不可分に結びついています。金融システムの混乱は、企業活動や雇用といった社会の根幹に深刻な影響を及ぼしました。

こうした事実を前に、当局のマクロプルーデンス政策において、カウンターパーティを分散させる必要性が強く意識されるようになります。投資信託の分散投資規制も、この大きな流れの中で位置付けられます。

協会規則策定時の議論

― 総論賛成、各論反対 ―

どの運用会社も分散投資の必要性に総論として異論はありませんでした。問題は、それをどこまで、どのようにルール化するかでした。会議ではさまざまな立場から懸念が示されました。

リンクノート1本に投資するファンドの運用会社は、事後的に施行される協会規則で運用方針を否定される点に反発。投資家がいるのに繰上償還しろと言うのかと声を荒げます。
別の立場からは、実需に基づく為替ヘッジ取引までもが規制対象である点に、複数のブローカーとの取引はコスト増だと懸念が示されました。「運用効率を損ね、受益者の利益を損なう」という率直な意見もありました。
また、銘柄選定の結果として特定の銘柄の比重が高くなっているファンドの運用会社は、アクティブ運用を否定するのかと主張。

インデックス運用に関しても、対象指数によっては構成銘柄の集中度が高いという指摘がありました。例えば、韓国のKOSPI指数におけるサムスン、スイス・マーケット・インデックスにおけるネスレなどが実例として挙げられました。

分散投資という原則と、市場や投資対象の特性をどう折り合いをつけるか。
検討会議に当局の担当官が陪席される時もありましたが、各社各様の思惑があり議論は熱を帯びました。

ルールの落とし所

― 分散を原則とし、例外は可視化―

最終的に協会規則は、いくつかの現実的な調整をしました。

① 経過措置
協会規則施行時(平成26年12月1日)に存在していた投資信託は、「信用リスク集中回避のための投資制限」の適用を5年間猶予。
→規則施行の瞬間に遡及的にファンドが否定される事態を防ぐ。

② インデックス運用に対する例外(第17条の3第1項第2号)
いわゆるインデックス運用については、指数構成銘柄である発行体のエクスポージャーをゼロとみなすこととなりました。
参照対象において特定銘柄の比重が高いとしても、パッシブ運用は追従せざるを得ないためです。

③ 特化型ファンドの明確化(第17条の3第1項第3号)
投資対象や市場の性質上、特定銘柄の寄与度が10%を超えると合理的に見込まれる場合には、3区分の合計エクスポージャー上限を35%まで緩和。
その代わり、
 ※ 交付目論見書の表紙で特化型運用であることを明示
 ※「ファンドの目的・特色」欄で、その影響を説明
といった可視化が求められました。

④超特化型ファンドの対応(第17条の3第1項第4号)
一の発行体へのエクスポージャーが35%を超える場合には、その発行体名をファンド名称に示す必要があります。そして、③同様に交付目論見書で2点を要開示。
→その発行体への投資であると認めろというもの。

⑤為替予約取引の扱い
ヘッジ目的で行われる、店頭デリバティブ取引に該当しない為替予約のうち、120日以内に満期を迎えるものは取引相手方へのエクスポージャーをゼロとします。
→カウンターパーティの分散に起因するコストは防ぐ。ただし、為替ヘッジ期間は120日以内という制限が生じており、頻度というコストは発生。もっとも、通常、為替ロール取引は時価変動や設定解約によるAUM変動に合わせて実施しており、120日間は十分な長さ。

【補足:ゼロとみなされるその他の資産】
このほか、
 ◯ 投信協会の自主規制委員会決議で定める国や国際機関が保証する債権
  (平たい言葉で言うと、先進国でリスクの低い国や国際機関)
 ◯預金、コールローン
 ◯満期まで120日以内のコマーシャル・ペーパー
→エクスポージャーはゼロとみなされます。

こういった発行体(取引相手)の信用力が短期間で急激に悪化するとは考えにくい、という現実的な判断に基づきます。

また、カウンターパーティーリスクが国際的に意識されるようになった契機はリーマンショック翌年の2009年に開催された、G20ピッツバーグサミットです。各国政府とも自国の国債は安定消化を希望しており、当局者の思惑もあったと見ています。

まとめ

投資信託協会の分散投資規制は、当時の市場環境、当局の問題意識、ビジネスのバランスをとった上で制定されました。一見すると機械的で細かい規則ですが、根底にあるのは「リーマンショックのような市場の失敗を繰り返さない」という意志です。

金融市場は平時には効率的ですが、ひとたび危機が起きれば、想像もしない経路で「連鎖」が起こります。投資信託のルールにはいくつか目的がありますが、交付目論見書における開示について言えば、投資家が「自分がどのようなリスクを取っているのか」を正しく認識できるように作られています。

【注意】※当ブログは、投資信託に関する規制の説明を目的としています。記載される個別銘柄の売買の推奨をするものではありません。

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