政府の資産運用立国に関する施策、NISA制度の盛り上がり、GPIFのEMPを受けて投資運用業を始めとした金融商品取引業を始めたい方のために、ライセンスについて解説します。
金融商品取引業の種類
金融商品取引業は登録を有する業務です(法第29条)1。どれほど運用に自信があってもorこれまで運用会社でFMとして活躍していても、自ら始める場合にはまず登録を行わなければなりません。金融商品取引業には4つの登録制の類型があります。
〇第一種金融商品取引業
〇投資運用業
-(通常の)投資運用業(法第29条)
-適格投資家向け投資運用業(法第29条の5)
〇第二種金融商品取引業
〇助言・代理業
そして、上から順にライセンス取得のハードルおよび維持するための基準が厳しくなります。
なお、投資運用や勧誘の相手方がプロや海外投資家のみの場合には、下記が届出制として設けられています。
・適格機関投資家等特例業務(法第63条)
・海外投資家等特例業務(法第63条の8)
ビジネスモデルの検討
これから金融商品取引業を創業する際には、まずビジネスモデル(投資された資金を運用するのかor運用はせず助言に徹するのか、個人も含めて投資家を募るのかor銀行や保険会社などプロだけを投資家のターゲットにするのか、投資対象は有価証券なのかor金銭の貸付なのか)を正確に設定すべきです。これは「自身の強みの明確化」と同義語です。
「登録完了までの手続きが比較的簡単そうだから」というだけで、助言・代理業の登録を行っても、投資家から資金を集めて運用できません。「まずは助言・代理業で登録して、そのあとに業の拡大として第二種金融商品取引業の登録もしよう」と思うかもしれませんが、両者間には登録基準の厳しさに大きな隔たりがあります。本当にやりたい第二種金融商品取引業の登録作業着手から実際に業務開始できるまでに少なくとも半年は要しますが、この間毎日コストはかかるのです。規制当局側の業務を行っていた筆者の感覚では10か月は必要です。
【スケジュール例】
登録着手→ビジネスモデル(案)作成→財務局に事前相談→社内規定などの整備(同時並行で自主規制機関への加入申請)→概要書作成→財務局ヒアリングへの回答とビジネスモデル(案)のブラシュアップ(損益見込みの精緻化含む)→登録申請書類提出→(標準処理期間)→登録完了→自主規制機関のルールに合わせた体制も要整備→業務開始
※金商業スタートアップ界隈で聞かれる「財務局は2か月くらいで登録完了と言っている」は青字の部分2だけです。
※登録完了から業務開始までは3か月以内でなければならず、実態としては登録完了までに自主規制団体加入と管理体制の構築を終えなければなりません。
投資運用業と投資助言・代理業
創業したい形態としては投資運用業が主と考えます。その特徴を投資助言・代理業との比較で記載します。
投資運用業は資金を自己の判断で運用できます。その代わり良い結果も悪い結果も特定期間ごとに数字として出てきます。一方、投資助言・代理業は運用はせず投資判断を顧客に伝えるのみです。助言に従う/従わないの裁量権は顧客にあり、投資助言者は強要できません。そして従った/従わなかったの結果を投資助言者に報告する義務もありません。ゆえに、投資助言で実績を上げても、投資運用のトラックレコードにはできません(投資助言で推奨した銘柄が上昇したとして、顧客が助言通り買っていたか客観的に判断できないため)。
投資運用業等の要件
金商法上、投資運用が可能な業態の特徴を整理します。
投資運用業 | 適格投資家向け 投資運用業 | 適格機関投資家等 特例業務 | 海外投資家等特例業務 | |
最低資本金 | 5000万円 | 1000万円 | 要件なし | 要件なし |
組織の様態 | 株式会社 | 株式会社 | 制限なし、個人でも可 | 制限なし、個人でも可 |
コンプラ部門 | 社内に必要かつ運用 部門から独立 | 外部委託可 | 要件なし | 外部委託可 |
投資家 | 一般投資家と特定投資家 | 適格投資家 | 適格機関投資家 | 海外投資家のうち法63条の8および業府令第246条の10を満たすもの |
注意事項 | 特にコンプラ体制整備が重要 | 運用財産総額は 200億円まで (外貨の場合は円換算) 時価ブレによっても200億円の超過不可3 | ファンド持分の勧誘も可能だが適格機関投資家以外に移転することのないよう措置を講じる義務等あり | ファンド持分の勧誘も可能だが海外投資家等以外に移転することのないよう措置を講じる義務等あり |
金融商品取引業のビジネスモデル別ライセンスチャート
本日のまとめとして、ビジネスモデルとして検討に上がるものより対応する金融商品取引業のライセンスを逆引きする、簡易式のチャートを作りました。参考として役に立てば幸いです。
【注】〇あくまで参考としての位置づけです。正確には法令を確認し、ライセンス登録にあたっては必要に応じて弁護士等の有資格者の協力を得てください。
〇内容の正しさには留意して作成しましたが、無謬を保証するものではありません。ご利用は自己責任でお願いします。
〇内容は当ブログ執筆時点である2024年1月20日に施行されている法令に基づいています。
閲覧により、上記に同意したものとします。
- https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025_20231129_505AC0000000079 ↩︎
- 関東財務局のHPには、登録の標準処理期間2か月とありますが、続いて「申請を補正するために要する期間や事前相談に要した期間等は含まれておりません。」と書いてあります。
https://lfb.mof.go.jp/kantou/rizai/pagekthp0320003140.html ↩︎ - 法第29条の5第1項第2号を受けた業府令第15条の10の5 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000321_20230701_505CO0000000231 ↩︎