2024年10月11日にPayPayアセットマネジメント株式会社様(以下、PayPayアセット)が事業終了のお知らせを告知しました1。同社が運用するファンドはどうなるのか、中長期投資の潮流に水を差さないか等、議論が起きました。
資本主義社会においては収益の追求は善であり、不採算事業からの撤退は経営判断としては理解できます。当ブログでは経営判断に対する善悪の見解は述べず、また関係する方々への誹謗を一切企図しません。この前提で、PayPayアセットが公表した「ファンドの今後の方針」から運用継続と繰上償還の分岐点の分析結果を共有します。
筆者は20年-30年といった時間軸で投資信託に投資したいと考えています。繰上償還は運用が強制的に終了されてしまい、その時点で損益がこれまた強制的に確定します。1投資家として、繰上償還はできるだけ避けたいと思ったのが当分析のきっかけです。
①純資産残高
運用継続と繰上償還を分けた1つ目の要素は純資産総額と考えます。下記はPayPayアセットの上記HPから方針が公表された12ファンドの名称と方針を転記し、便宜的に上から順に番号を振って2024/11/1の純資産総額(AUM)を記載したものです。No.1-4のファンドは繰上償還となっており、そのAUMは30億円未満に分布しています。
ファンドの運用のためには、運用に直接関連する費用(リサーチや売買執行)に加えて、ディスクロージャーや基準価額の計算システム、会計監査に関する費用もかかってきます。これらは、ファンドの規模に拘らず等しくかかるものであり、純資産総額が小さいと相対的に大きな割合となってきます。
インデックス運用はアクティブ運用に比して運用担当者の人件費は少なく済みますが、必ずかかるコストを賄うためにはやはりある程度の規模は必要です。No.2-4のファンドはインデックス運用であり、No.1はインデックス運用ではありませんが、主たる投資対象をインデックスファンドとするファンドオブファンズの形態をとります。費用を賄えるだけのサイズではなかったようです。
②類似ファンドの不存在
No.5-12のファンドは運用会社をアセットマネジメントOne株式会社様(以下、AMOne)に変更して運用継続の方針とされています。
①では、運用継続と繰上償還を分けた要素として純資産総額を上げましたが、No.5-7の投資信託が運用継続となったことと平仄が合いません。No.8のファンドも純資産総額は、No.3とほぼ同じです。そこで追加分析のために、運用を引き継ぐこととなるAMOneで運用方針が似たファンドの有無を調べました。
投資対象が同じファンドがあれば、運用会社は知見を生かせます。投資対象が同じとは、例えばAファンドとBファンドが双方ともインデックス運用をしていて、連動対象が同一の指数である場合です。No.8のファンドは日経平均株価(配当込み)への連動を目指しており、AMOneには日経平均株価への連動を目指すインデックス マネジメントファンド 225があります。両者ともベビーマザーのストラクチャーですので、No.8の約款を変更して投資対象をインデックス マネジメントファンド 225の主たる投資対象であるインデックス マネジメントファンド 225マザーファンドにすれば、規模の経済を働かせた形で運用が展望できます。
No.3のファンドにもAMOneのHPから類似ファンドを見つけましたが、AUMは6.28億円。投資対象とするマザーもAUMが6.49億円(最新の請求目論見書より引用、時点は2024/6/28)であり、仮に約款変更して投資対象マザーを等しくしても30億円を少し超えるにとどまり、満足のいく運用ができるかは不明です。
繰上償還される予定のNo.4のファンドには規模の大きな類似ファンドが2つ見つかりました。たわらノーロード NYダウもOne NYダウ・インデックス・ファンドもNYダウ・インデックス・マザーファンドを投資対象としており、AUMはそれぞれ700億円超、220億円超です。これらが投資するマザーファンドの規模は単純計算でその合計とほぼ同額と思われます。(One NY ダウ・インデックス・ファンドの最新の請求目論見書では、同マザーのAUMは839億円、時点は2024/4/30)
従って、No.4の投資対象をNYダウ・インデックス・マザーファンドにすれば良さそうですが、「AUMの差が大きすぎる問題」があります。もし、たわらノーロード NYダウかOne NYダウ・インデックス・ファンドのいずれかもしくは双方に投資家から解約が大きく入った場合、NYダウ・インデックス・マザーファンドは解約資金捻出のため、保有する株式を売却します。すると運用効率は一時的に下がります。PayPay投信 NYダウインデックスの投資家からは特段大きな解約が入らずとも、マザーを等しくする他のベビーの受益者の動向で影響を受けるのです。そしてこの影響度合いは、ベビーファンド間のAUMに差があればあるほど大きくなります。
受益者の公平性に鑑み、そういった事態は避けたかったのかなと見ています。
③信託銀行の一致
No.8のファンドはAUMが27億円強です。AMOneには類似ファンド(インデックス マネジメントファンド 225)がありますが、AUMは91.28億。その主たる投資対象であるインデックス マネジメント ファンド 225 マザーファンドのAUMは164億円強です。(最新の請求目論見書より引用、時点は2024/3/29)
No.4のファンドと同じ「AUMの差が大きすぎる問題」が起きそうですが、両ファンドは信託銀行が三井住友信託銀行様であるという共通点があります。実務上、クリアすべきポイントがあるものの、受託者を同じくする信託は信託財産は併合が可能です2。
新たな1つの投資信託として運用することも理論上は可能です。こういったことからNo.8はAMOneで運用継続となったのかもしれません。
④その他
No.9-10はAUMが100億円を超えており、また運用会社の知見を活かせると判断したからと思いますが、運用継続です。No.11-12はAUMは大きいとは言えませんが、ファンド設定時点で2026年10月までが運用期間とされていたことが理由でしょうか、あと2年運用されるようです。
No.5-6はAUMが3億円に満たず、AMOneに類似ファンドは存在しません。しかし、運用が継続されるようです。
これは筆者の推測ですが、設定から1年半で繰上償還するのは投資家へのコミットの観点から疑義があること、2ファンドはAMOneがPayPayアセットに出資(2022年8月)した後に設定されたことが理由ではないかと見ています。
教訓
冒頭に記したとおり、ビジネスへの進出と撤退は企業経営陣の専権事項です。投資運用業はステークホルダーが多岐にわたりますが、株式会社である以上は採算が取れない事業からの撤退は選択肢になりえます。
中長期の投資を望む者としては、AUMがある程度の大きさあること(瞬間的なAUMの膨張だけではなくトラックレコードを見た時にコンスタントに増加)、運用会社が収益を出せており事業継続性を見出せること、運用会社が万一、事業撤退しても運用を引き継いでくれるアセットマネージャーが見つかる類型であることに留意したいです。
ご参考:12ファンドの分析 注)公表されている情報から作成しましたが、内容の完全性を保証するものではありません。当分析の利用により発生するいかなる不利益についても、当ブログは責任を負いません。ご利用は自己の責任においてお願いします。
当ブログは投資信託の運用継続と繰上償還の背景考察を目的としており、経営判断や関係各方面への批判を行うものではありません。また、言及されるファンド、運用会社に関する投資推奨等を行うものではありません。
- https://www.paypay-am.co.jp/oshirase/ ↩︎
- 信託法 第2条第10項、投資信託及び投資法人に関する法律第16条第2号 参照 ↩︎