「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2025」の着目点

当局資料の考察

当局から2年ぶりに公表されたプログレスレポート。約100ページにわたるレポートを読んで、当局の問題認識は「付加価値の提供と適正な対価の授受」にあると思いました。以下、私見を記載します。  ※レポートの該当ページを(p##)で示します。
金融庁 webページ https://www.fsa.go.jp/policy/pjlamc/20250627/20250627.html

付加価値の提供(=投資運用業界にとって厳しめの内容)

批判ポイント1 商品設計の甘さ

  • アクティブファンドなのに運用目標や想定リスクが設定されていない(p29)。→これは後述のモニタリングの足掛かりが無いという意味。
  • 運用を委託するファンドにおいて、委託先との間で運用目標、想定リスク等が明確化されていない(p29)。→今年5月1日施行の改正金融商品取引法(以下、改正金商法)により、運用権限の全部委託が可能となりましたが、運用の「丸投げ」は従前も今も認められていません。規制緩和の方向に法令が変わったからこそ、委託元としての責任はより厳しく問われると感じます。
  • 株式アクティブファンドにおいて、市場βも含めた(運用者の能力によらない収益源)期待リターンを勘案して、信託報酬の水準を決めている(p30)。→類似ファンドが並列している運用会社においては、それらファンドの費用水準について一貫した説明ができそうでしょうか。運用方針も投資ユニバースも類似なのに、設定した時期や主要販売会社によって信託報酬の水準が変わったりしていないでしょうか。

批判ポイント2 設定後のモニタリングの精度

  • 顧客が負担するコストに見合った価値を提供しているかモニタリングしている運用会社が限られるとの懸念(p32)。
  • また「モニタリングをしている」運用会社でも精度に疑問符が付くケースも。
  • 一例だが、パフォーマンスが不芳なファンドだけを抽出(p31,32)。
  • アクティブファンドはベンチマークを上回っていることでそれ以上の検討を打ち切っている。ベンチマークを僅かに上回るだけでは、信託報酬控除後に投資家に残る付加価値は僅少となる(p32)。→さらに言えば、ベンチマークを配当落指数とするなど、妥当性が問われる比較も。
  • 外部委託先との間で運用目標や想定リスク等に係る取決めを行っていないため、外部委託先の運用状況等を十分にモニタリング・評価できていない(p32)。→もしこういった状況が起きているなら「丸投げ」の批判に耐えられないです。担当者の問題なのか組織の問題なのかは運用会社によりますが、運用委託しているファンドにつき、委託先選定の事跡と契約書を確認されるのを勧めます。
  • モニタリング結果を、既存商品の改善だけではなく、今後の商品組成時の検討にも活用することが期待される(p31)→販売会社やグループの方針によりテーマ型ファンドを時流に沿って設定。以後は放置という姿勢はもう許容されません。

適正な対価の収受(=投資運用業界の背中を押す内容)

国の姿勢 資産運用立国を目指す

  • 新しい資本主義のグランドデザインを引き合いに、「資産運用業が我が国金融業の中で銀行・保険・証券に並ぶ第4の柱となるよう、業界の発展を継続して推進する」、「世界の資産運用会社と質・量ともに伍していけるプレーヤーの育成を目指す」点に触れている(p2)。→プログレスレポートの目的は、投資運用業者の中傷ではありません。改正金商法の内容を見ても、新規参入のためのハードルを下げたり、投資判断に集中できるようミドルバックのアウトソースを認めたり、各種施策を講じてくれています。

より発展するために収益力向上を

  • 運用会社は絶えずより良い金融商品の提供に向けた取り組みをしていくべき。その原資を確保すべき。(p3)→当局は投資家から見て、低コストが善という立場=投資運用業者にとっての薄利が善という立場をとっていないです。
  • 収益構造を見ると、日系大手13社では国内パッシブファンドが営業収益に最大寄与している。しかし、その背景は日銀によるETF買い入れではないか。(p10)→このあたりは公表データを淡々と冷静に見ている印象。

対価(コストではない)の負担を要請

  • 発行体へのエンゲージメントは中長期的により高い投資リターンを受益者や投資家にもたらすための方策。だが、アセットオーナーが資産運用会社に求めるエンゲージメントの報告項目が増加する傾向にあり、フォーマットも不統一なため事務負担が増加している。(p38)
  • アセットオーナーはエンゲージメントを通じた中長期的なリターン向上を希求するならば、相応の負担を行うなど適切なコストを負担すべき。(p39)→ビジネスは誰かの一方的な犠牲の上には継続しないという真理に言及。

投資運用業者に課された課題

レポートを読んで、日々の業務で早急に取り掛かるべきと感じた内容です。

やるべきことコンプライアンス部の役割メモ
投資家が負担するコストと提供するパフォーマンスの一致性、後者の優位性を確認=「コストに見合う十分な付加価値の提供」という観点からモニタリングが行われていないため、改善対応が必要な商品が放置(p32)への処方箋当局の問題認識を商品開発部署や営業部署に伝達。信託報酬の絶対値の大小やインデックス比パフォーマンスが論点ではない。収受するコストに見合っているかが重要。プログレスレポートp28-30では株式アクティブファンドでβも信託報酬の算定対象とする点に否定的な見解が示されていたり、かなり踏み込んでいます。
不芳ファンド対応
①当ファンド
 -AUMの少なさに起因する場合、増加していく見込みはあるのか(インフローの獲得、運用による残高増)
 -運用者のスキルによる場合、講じられる手段はあるのか
②類似の運用戦略ファンドに共通の課題はないか
これまでに講じてきた手段の妥当性、またそれらの策が有効に機能しなかったなら理由は一緒に検討したい。運用の改善・商品設計の変更等 工夫がみられる事例にはファンドの併合など「最終手段」と思われる記載があります。

なお、運用担当者(ファンドマネージャー等)の交代に触れているが、労働基準法上、不利益変更と見做される行為は労使間のトラブルになりかねない。当ブログはコンプライアンスに関する事項を取り上げているので、念のため注意喚起させてください。
運用委託先の管理
運用の丸投げは認められていない。ファンドパフォーマンスに拘らず、委託ガイドラインの十分性、先方からの情報提供の充実度やレスポンス速度に納得できるか。
委託先の選定は運用部署主導で行われていると思われる。だからこそ、独立した立場のコンプライアンス部は、運用力以外の要素で委託先が決まっていないかモニタリングの義務がある。
運用委託ガイドラインの精査
 -アクティブファンドなのに目標リターンが未設定(p29)などは論外
 -ガイドラインの改定は手間がかかるが、事務コストを言い訳にガイドライン改定交渉を進めない運用委託先があれば、委託先としてふさわしくないと感じる。
運用を委託しても最終的な責任は委託元にある。顧客の最善の利益を勘案した運用をする委託先を見極める契機になるのではないか。筆者の所感となってしまいますが、プログレスレポートで検討対象となった社の中には
-アクティブファンドにもかかわらず、運用目標や想定リスク等が設定されていないため、組成後の適切な検証が行われていない(p29)
外部委託ファンドにおいて、外部委託先との間で運用目標、想定リスク等を明確化していない(p29)
状況があったようです。これはアクティブ運用の根幹を揺るがすと思います。検討対象社はいわゆる大手です。プロダクトガバナンスの水準とAUMに直接的な相関はありませんが、「大手」がこのような行為をしていると、資産運用業界も行為と等価で見られてしまいます。
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