未上場株式のファンド組入

実務上のポイント

いよいよ明日2月15日から、投資信託協会の改正「投資信託等の運用に関する規則」(以下、改正規則)が施行されます。改正のポイントと実務上の論点を押さえておきたいと思います。

投信協会HP 改正規則 https://www.toushin.or.jp/static/publiccomment/ichiran/22460/

改正のポイント

☑未上場株式または未登録株式(以下、未上場株式等)を原則として、投資信託財産の純資産総額の15%1を上限に組み入れられる2
☑投信協会の会員たる投資運用会社は未上場株式等を運用するファンドに組入れる際に、予め対象者の経営健全性や財務健全性等を審査3
☑審査体制を整備し、審査結果を保存4
☑間接保有する際は、ファンドの投資先における審査体制の適切さを確認5
☑直接保有・間接保有いずれの場合も、審査は必要に応じて継続実施
☑これらを2024年2月15日以降に有価証券届出書を提出したものから適用する

組入上の2つの留意事項

未上場株式等は開示される情報が限られ、個人投資家を標的にした詐欺もありました。今回、投資信託(運用会社の目利き)というフィルターを通じて、投資機会を広く提供できるようになったのは画期的です。改正規則施行前も投資信託が未上場株式等へ投資することは禁じられていませんでしたが、その要件があいまいでした。規則化により、投資条件・構築すべき体制が明文化されたのは前向きにとらえています。

しかしながら、相対的に高リスクである未上場株式等への投資には留意すべきポイントもあります。以下、筆者の懸念事項を記載します。

①評価の難しさ
未上場株式等は市場参加者間で活発に取引が行われません。また、発行時点で転売制限が課されていることもあります。発行者は日々業務を行っているはずですが、その企業価値を客観的に毎日評価するのは不可能です。投資信託は基準価額を毎営業日算出しますが、その構成要素である非上場株式等の評価が”正しくない”場合、算出される基準価額も”正しくない”こととなります。

投信法第21条では投資信託運用会社の任務懈怠は損害賠償責任の対象となっています。誤った時価評価により1円以上の基準価額相違が生じると、「本来よりも高くファンドを買った」「本来よりも受け取る解約金が少なかった」問題が生じかねず、販売会社も巻き込んで受益者対応を余儀なくされる恐れがあります。

時価評価は受益者にダイレクトに影響するため、未上場株式等の時価評価体制の整備はもちろんのこと、いわゆるマテリアリティーポリシーの作成・公表も必要と考えます。別途、基準価額算出一元化の議論も進んでおり、時価データの入手義務者、算出エラー時の責任範囲などがどうなっていくのかも注目しています。

②低流動性
①とも関係しますが、評価額は妥当なのかわからず、自由に売買できる市場もありませんので、専ら相対でのやり取りになります。カウンターパーティーが見つかればよいですが、特に市場でイベントが起きた時などにはクリティカルになります。上場株式等でも投げ売りは起きますが、未上場株式等では投げ売り価格にしてもなお買い手が見つからない可能性があります。公募の投資信託は日々の設定解約が通常は自由に認められています。市況の悪化で受益者からの換金が相次いだら、売りやすいもの(上場株式等)から換金されていきますので、解約のための売りがまた売りを呼ぶ可能性もあります。そして、ファンド内に残るのは換金しにくい未上場株式等となりますので、比率が15%を超過してしまうかもしれません。

中長期で運用していくファンドなら、目先の市場イベントを切り抜けることもできますが、日本の投信業界で長らく問題視されてきた「テーマ型ファンド」「旬を過ぎたら乗換販売」では、市場イベントの前に散っていくでしょう。

まとめ

未上場株式等投資のための制度整備には頭が下がります。政府も方針としてスタートアップ5か年計画を掲げていますので、未上場株式等への投資はある意味国策です。外堀が埋まる中で、投資家保護のためのルールを策定した投資信託協会事務局の手腕に敬意を表します。

コンプライアンスの観点からは、未上場株式等の評価方法、投資家への開示、市場イベント時の解約停止の有無に注目しています。

  1. 投資信託証券や匿名組合契約を通じて保有している場合は、実質保有分ベースで15% ↩︎
  2. 改正規則第11条第2項 ↩︎
  3. 同第11条の2 ↩︎
  4. 同第2項 ↩︎
  5. 同第4項 ↩︎
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