コンプライアンスという仕事の魅力

キャリア
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筆者がアセットマネジメントの世界でコンプライアンスの仕事についてから14年が経過しました。振り返ってみて晴れの日ばかりではありませんでしたが、コンプライアンスを仕事にできてよかったと思っています。

運用会社に入社してコンプライアンスをやりたい人は少ないと想像しますが、せっかくの機会なので筆者が思うコンプライアンスという仕事の魅力を発信します。

ビジネスの推進の役に立てる

会社によっては、ダメ出しやゼロリスクの追求がコンプライアンス部署の目的になっているかもしれません。しかし、私が思うコンプライアンスはビジネス推進の一助になるものです。
 投信運用業を含む金融商品取引業は規制業種です。会社として何か新しいアイディアを実行する際には適法性を確認する必要があります。ここで、「法令上許容されないかもしれないから○○をしてはいけない」とコンプライアンス部署が判断を下すのは無責任です。法令に抵触する可能性があるなら、どうすればクリアできるのか考えるのが専門職の責任ある姿勢です。
 投資運用業者の一部署である以上、行う全ての業務が何らかの形で会社の利潤に寄与すべきです。営業部署のように直接収益を得られずとも、会社がリスクを適正に取れるよう支援するのがコンプライアンスのあるべき姿です。
 ビジネスへの助言のためには、法令を正しく理解しているのはスタートラインです。それがゴールだと思っているコンプライアンス担当者を見てきたので、明確に言っておきます。加えて、助言対象のビジネスを正確に把握する必要があります。
 Noしかいわないコンプライアンス部署に相談したいフロントは皆無です。相談したいと思ってもらえる担当者であることもコンプライアンスに必要なスキルです1。自身がもつ法令等に関する知識を実務の役に立てられるのが、コンプライアンスの魅力の1番目です。

専門性を向上させ続けられる

冒頭記載したように、金融商品取引業は規制業種であり各種法令・加入する自主規制機関規則に拘束されます。世の進展に伴いルールも複雑化し、新規制が生まれることもままあります。規制緩和と規制強化という2つの極の間を行ったり来たりしつつ、法令は強化されていく方向にあると見ています。回顧主義者から「昔はよかった」という言葉が聞かれるように、現代の方が法令・諸規則の縛りは厳しいです。
 さらに、金融商品取引業は日本だけではなく米国や欧州の規制の影響も受けます。域外適用もあれば、規制当局が米国や欧州の規制を見て日本にも同様のものを導入する場合もあります。
 「正しさ」は不変ではなく変遷していきます。事業会社のリスク管理部署として、コンプライアンスは正しさを適時にアップデートしなければなりません。ただしこれを行うことで、ノウハウの陳腐化から無縁でいられます。
 最新の動向に精通し、過去からの経緯も把握していることで陳腐化/コモディティー化を避けられるのがこの仕事の魅力の2番目です。

ジョブセキュリティー

生々しい話ですが、職業の安定性についても所感を記します。殊、投資運用業の世界においてはコンプライアンスという仕事は無くならないと思っています。
 他の金融業と比較してみると顕著ですが、投資運用業は利益相反を内包しています。例えば、銀行業は預金者の要求に応じて預金を払い出しさえすれば、お金をいかなる先に貸し出そうと銀行の裁量の範囲です。保険業も支払事由が生じたときに保険契約に沿って保険金を支払えば、保険料の運用方法は契約者の意向に拘束されません。しかし、投資運用業では資金の出し手に損失も利益も帰属しつつ、運用会社は信託報酬等として運用結果に拘らず資産から手数料を収受できる形態になっています。PE投資の世界では成功報酬を得るものもあります。
 投資運用業は極めて利益相反性が高い業態と考える所以です。元本保証型の投資運用業(?)が登場しない限り、利益相反を管理する者は絶対に必要です。
 今国会に提出されている改正金商法案では、「投資運用関係業務受託業」が新設されています2。細かい説明を省いて端的にいえば、投資運用業者にコンプライアンス業務のアウトソースを認めるものです。この制度をもって、「投資運用業者にコンプライアンスはやはりいらなかった」という判断は早計です。当条文はコンプライアンス業務のアウトソースを認めているだけで、コンプライアンスの放棄を容認していないからです。社内でコンプライアンス業務に当たる者はいなくなるかもしれませんが、コンプライアンスという責任が無くなるのではありません。絶対に必要な仕事であるのが魅力の3つ目です。
 能力あるコンプライアンス担当者にとっては朗報です。投資運用業者においては、コンプライアンス部署が士気が低く、新しい事項を学ぼうとせず、専門性が欠如し、単なる評論にいそしむ者の置き場になっています。こういう者がコンプライアンスのイメージを悪くしてきたので、法改正を機に淘汰されれば良いなと思っています。

今後の展望

人材は時価評価されるべきであり、会社にいた長さだけによって給料や役職が決まるのは誤りです。そういう企業にも社会的な意義はあるのですが、能力ある人材が見合った待遇を得る場所ではありません。
 これだけ書いてきましたが、私も会社から雇用契約をいつ終了されるかはわかりません。その時が来てしまった時に、「コンプライアンス・オフィサーおります」を胸を張って前向きに言えるように、日々の業務に最善を尽くします3
 改正金商法は投資運用業界に大波とまでは言えませんがさざ波は起こします。ビジネスパーソンのキャリアはルートも目的地も各位それぞれですが、コンプライアンスの専門職という共通点をもった皆さんと時に情報交換なり共働できたら幸いです。

  1. 営業部署のすべてを理解できずとも、理解しようと努め続ける責任がコンプライアンス部署にはあります ↩︎
  2. 改正金商法案第2条第43項第2号、44項 ↩︎
  3. 被雇用者という立場は解雇によって失われてしまいますが、業務を通じて得たノウハウは失われることのない財産です ↩︎
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