募集と私募の違い
金融商品取引法(以下、金商法)は条文が多くて入り組んでいて、しかも難解な言葉遣いがされています。読み解いていくためには、定義を正確に理解する必要があります。日本の法律は第1条で目的を述べ、第2条で定義を示し、第3条以降から本論に入っていく傾向があります。今回は金商法の第2条(定義)より、タイトルに挙げた用語を整理します。
有価証券に関して、募集と私募の違いは「募集でないものを私募といいます。私募でないものは募集です」となります。あまりに不明確なので、条文も引用しながらもう少し丁寧に整理します。金商法では有価証券の種類(1項有価証券か2項有価証券か)で募集と私募が異なります。*わかりやすさを優先し、条文全部は網羅していません。正確には条文をご確認ください。
募集 | 私募 | |
1項有価証券 | ・50名以上に取得勧誘。(適格機関投資家以外に譲渡されるおそれが少ない場合の適格機関投資家は50名にカウントしない) ・特定投資家のみを勧誘の相手方とするが、法第2条第3項第2号ロ、ハを満たさない 参考条文:法第2条第3項第1号と第2号、令第1条の5 | ・上段以外=いわゆる少人数私募 ・下段以外=いわゆるプロ私募 |
2項有価証券 | ・勧誘対象の第2項有価証券を500名以上が所有することとなる場合 参考条文:法第2条第3項第3号、令第1条の7の2 | ・勧誘対象の第2項有価証券を500名未満が所有することとなる場合 |
流通性が高いとされる第1項有価証券は勧誘数基準(お声がけベース)である一方、流通性が相対的に低いとされる第2項有価証券の場合は所有者数ベース(実態として保有することとなった者の数)であることがわかります。
取扱い
「募集」も「私募」も耳にする用語であると思いますが、定義を見ていくと上述のように有価証券の種類ごとに募集とされる基準が異なるのです。そして、これらには「取扱い」という概念があります。前者は法第2条第3項に定められ、第2条8項第7号にも登場します。後者の「取扱い」は法第2条第8項第9号に登場します。
この記事のハイライトになりますが、取扱いとは第三者が発行した有価証券をその第三者に代わって勧誘することです。
実例 投資信託の直販業者
投資信託の運用業者(法上は投資信託委託業)の中には、第三者である販売会社を介さずに、当該運用業者自ら投資家を勧誘する社があります。復習になりますが、投資信託受益証券は金商法第2条第1項第10号に掲げられますので、第1項有価証券です。また、委託者指図型投資信託受益証券の募集と私募は、金商法第28条第2項第1号に記載される「第2条第8項第7号に掲げる行為」が参照する同イ、ロ1にあたるので、第二種金融商品取引業の登録で行えます。また、投資信託の受益証券は投信法第2条第7項にあるように委託者が発行するものです2。
金融庁のホームページから「金融商品取引業者登録一覧」を確認すると、投資信託の直販をされている社は登録対象の第二種金融商品取引業にチェックが入っています。
では、第二種金融商品取引業の登録をしているA社は、同業他社であるB社が設定する投資信託を募集できるでしょうか?
結論としてはできません。他社の投資信託に関して投資家を募るのは、金商法第28条第1項第1号に記載される「有価証券についての第2条第8項第9号に掲げる行為」が参照する「有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱い」にあたるので、第一種金融商品取引業の登録がなければ行えません。
金商法は定義の時点で入り組んでおり、細かい言葉の差異で大きな違いが生じるという例です。逆を言うと、定義をしっかり頭に入れることで理解の速度と深度が高まります。